ある日見た夢:一番近い過去
『この世は、もう、デジタルな人間でなければ生活できない世界なのでしょうか』
かつて、メールにそう書いてきた仲間がいた。
マトリックスみたいでちょっと嫌な世界の夢。
みんなステレオタイプな笑い方や悲しみ方をしてるから、もっと嫌かもしれない。
うとうとしてたら、変な夢をみた。
肉体を捨て、電脳世界に意識体を置く人間達。
仮想空間とはいえ、見た目は普通の町並みとなんら代わりはない。草や木や動物達もちゃんといる。
ただ、それはあくまで「データ」でしかない。
人間によってつくり出されたもの、自然を模倣してつくられたものに過ぎなかった。
そこにいる「人々」だってもちろん「データ」だ。
自分自身を構成しているデータの損傷率で本人の健康度を示したりしているあたりがいかにも仮想空間らしい。
ケガをしたときは、破損箇所を修復できるツールを使う。単純なものは薬局で薬のような感覚で売っているし、病院でも修復してもらうことができる。
逆にデータを損傷させる厄介なツールもある。場合によっては全損もあり得るといった代物もあった。いわゆる凶器というべきものたちだろう。
病気は、相変わらずウイルスらしい。現実世界と違うところは、すべてが人の手によって作られたものだといったところか。
売っているといえば、当然買い物はみんなデータのやりとり。物のように見えても、みんなデータでしかない。
それと当然ながら、みんな何も食べない。食べる必要がないからだ。強いてあげるとすれば、電気が必要なくらいか。
そのへんを気にしなければ、いつもの自分がいる空間となんら変わりはないように思えた。
……いや、そうでもない。人々の行動が、ちょっとおかしいように思える部分がある。
自分の子供を圧縮ツールで圧縮している女。自分の子供を捨てるつもりらしい。不治のウイルスにでも感染しているのだろうか。
人間の姿を取らないものもいた。なんでも、そのほうが行動しやすいのだそうだ。その人は、都合のいいように自分自身の姿を変えて、好き勝手やっていた。
都合により正体を明かしたくない者は、全身がサンドストームでおおわれていたりする。ここでも匿名性の概念は健在なのか。
自分自身を改造している青年がいた。何やらあやしげなデータを体に組み込んでいるようだ。空でも飛ぶつもりだろうか。
聞けば、データの改ざんが比較的容易にできるらしく、詐欺的犯罪が後をたたないらしい。わかる気もする。
パッチを当てまくってしまえばどんな落ちこぼれも一気にエリートだ。パッチを当てていない人間のほうが重宝がられているくらいである。
大人になるたび素直じゃなくなるのは、やはりパッチのせいだろうか。
自分から少し離れたところに、データが全損したネコを抱えて悲しそうな顔をしている女の子がいた。
そのとき。
まわりのみんなが、一律同じような悲しみ方をしているのに気がついた。
同じような言葉を口にして、同じようなタイミングで悲しんでいる。
涙の流し方も、まるで同じ。
遠くの学生達は、みんな同じ顔で笑っている。
同じような笑い方。声まで似ていやしないかと思うくらいに、どの子もみんな同じように笑う。
ステレオタイプ。
感情などといった部分もすべてデジタル化されているのだ。
理詰めで作り上げられた「感情」のデータ。
性格までもが人に作られたものであることに気がつき、ちょっと寒気を覚えた。
『この世は、もう、デジタルな人間でなければ生活できない世界なのでしょうか』という仲間のメールの一文を思い出したとき、目が醒めた。
機械をつくり出したのは、人間だ。
人間は、他のどんな動物よりも、まさしくデジタルな生き物だったのだ。
なんかちょっとだけ、嫌な後味の残る夢だった。
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