ある日見た夢:悪夢の連続

みんなと、楽しく話をしていたはずなのに、ふと気づくと、まわりに誰もいなくなっている。
瞬きひとつの瞬間で、僕は部屋にひとりぼっち。
驚きのあまり、また瞬くと、今度は白い空間に放り出される。
影もできない、真っ白な光の空間。
どこまで行っても、誰も、なんにも、見当たらない。
そして、目の前がひときわ眩しく光った。
……白い光に、僕は灼き殺される。

部屋でマシンをいじったあと、疲れてそのまま床へ寝転がった。
目を閉じて、ゆっくりと、眠りに入る。
……はずだったのだが。
背中にあたっている床の硬い感触が、妙に柔らかくなった。
まるで、ゼリーのような。
どんどん、床に沈み込んでいく。
足に、腕に、躯中に、ゆっくりとねっとりと絡みつくような、生温かく、ともすれば艶かしくも思える、全身を這う異常な感触。
僕は、身体全体がゼリー状の床に飲み込まれていくような、なんとも言えない感覚をおぼえた。
これは夢だと気づいた僕は、急いで目を開けようとする。
でも、目が、開けられない。
遅かった……そう思った瞬間、突然目が開いた。
目が合った先には、まるで軟体動物のような、歪んだ僕の姿。
ぐにゃりぐにゃりとしつこく形を変える。しかも、なんとも耳障りな音を立てながら。
……ああ、ようやくわかった。
僕は、液体金属の中に、閉じ込められているんだ。

1x年前のあの日に、戻ってきた。
そこは、いつものように、夜、浜辺で遊んだ帰り道だった。
僕の前を歩く仲間達に、声をかける。
「なに?」
振り向いたみんなの顔には、モザイクがかかっていた。
一瞬笑みが途切れた僕を見て、仲間達が心配そうに声をかけてくれる。
『ドウシタノ?』
まるで、機械を通したような声。
さらに重なる動揺を隠せない僕のもとに、金糸雀が飛んできた。
……でも、その姿全体が、テレビでよく見るあのサンドストームに包まれていた。
何か言っているのだが、まるでチューニングの合わないラジオのようで、何も聞き取れない。
これは、どういうこと?
僕は、もうみんなを憶えていないって、こと?
嫌! 忘れたくない! 忘れたくないのに! 思い出してよ……!
うずくまった僕が再び顔をあげると、僕は違う場所にいた。
……真っ赤な、病室の、中に。

僕は、水時計の中にいた。
ゆらゆらと、夕闇色の水の中に揺られていた。
不思議と呼吸が苦しくなることはなく、ひんやりとした感触が、なにより気持ちよかった。
“こぽん……こぽ……”
水の中に響くのは、水が滴り落ちる音。
それは柔らかく心地よく、僕を限りなく解放しようする、不思議な音。
水の中に差し込むわずかな光が、反射して、屈折して、キラキラと水に表情を持たせる。
『……綺麗……』
やがて水がどんどん少なくなり、顔が、半身が、水面に出た。
もう少し揺られていたいな、と思う気持ちをよそに、水は落ち切ってしまった。
冷えた身体をさすっていると、ふいに水時計が逆さにされた。
重力で床に叩きつけられるかと思いきや、ふわりとやさしく床に降り立てた。
そして天井から落ちてくる、夜明け色の雫。
僕はそのひと粒ひと粒に打たれながら、また水の中に戻れるのを嬉しく思っていた。
……水時計が壊されるまでは。
僕が入った水時計は炎天下に投げ捨てられ、勢いでガラスの器は割れてしまった。
水は瞬く間に蒸発し、僕はなんだか息苦しくなってきた。
身体がどんどん乾燥していく。身動きが取れない……。
僕の身体が完全に乾き切ったとき、まわりは突然夜に変わった。
夜の闇に吹き荒れる突風は、僕の乾いた身体を、一瞬で粉微塵にした。
塵となって舞い上げられる僕。
僕はやはり、不必要なのだろうか。

眩しく朝日が射す、見知らぬ部屋の中に、僕はいた。
ひとりきりで、何も考えられないほど、脱力しきった僕。
何か考えようとしたとき、突如として頭の中にマイナスの記憶が押し寄せた。
幼い頃のさみしさ、学校で感じた不条理、仲間達との永遠の別れ……早送り再生のように、一気に脳裏を駆け巡る。
一瞬ですべてが嫌になる。たまらず叫び声をあげた。
この負の記憶の高速再生を止めるには、自己の破壊しか思い当たらない。
目に止まった刃物を手にし、泣きながら腹をめったやたらに刺した。
頚を突き、引きちぎるように裂いた。
その場にくず折れ、嗚咽に混じって血を吐き出す。
……僕は、自分の異常に気がついた。
どれだけ自分を傷つけようとも、自分が死ねないことに。
痛む腹と首筋。何度も吐く血と内容物。
身体中血まみれになっても、僕は死ねなかった。
痛みにのたうちまわりながら、己の不幸さを呪った。

どれもいい夢じゃない。毎日続くと、こころと身体が疲れてゆく。

textsある日見た夢

Posted by CINDY